選挙で選ばれた政治家が政策決定をするという意味での民主主義に対する失望や嫌悪は日本をはじめいろいろな国で聞かれます。しかし民主主義体制が世界の潮流となった現在、この政治のしくみをなんとかうまく使いこなすためのヒントを、「べき論」ではなく、比較政治学を中心とした社会科学における実証分析の蓄積から掘り出してきて一般の人に紹介しよう、というのがこのブログのねらいです。(1ヶ月に1回を目安に更新します)

2015年1月17日土曜日

自分の選挙区の政治家の名前、言えますか?


 自分の居住する選挙区から選出されている衆議院議員、参議院議員の名前を言えますか?もし言えないとしたら、それはあなたが政治に興味をもっていないからではなく、メディアのあり方のせいかもしれません。アメリカで発行される新聞の約90%が(全国紙ではなく)地方紙であることを利用してこの点を検証しているのが、シュナイダーとストロムバーグの研究です。
 彼らが着目するのは、選挙区の境界と地方紙がカバーする領域が選挙区によって違っている点です。例えば、選挙区1の有権者のほとんどが地方紙Aを購読しているのに対し、選挙区2の有権者の間では、地方紙B, C, Dなど居住地域ごとに違った新聞をとっている、という状況です。ここではとりあえず前者を「一致選挙区」、後者を「不一致選挙区」と呼んで話を進めましょう。シュナイダーとストロムバーグが1992年から2002年のデータを使って分析したところ、不一致選挙区の有権者に比べると、一致選挙区の有権者は、自分の選挙区の下院議員の名前を知っている割合、また、その議員に対してなんらかの意見(評価)をもっている割合が高い傾向にあることがわかりました。これは、同じ程度に政治に関心がなくても、新聞の報道のしかた次第で政治に関する知識が増えることを示しています。
 議員レベルの行動をみると、一致選挙区から選出されている議員のほうが、その選挙区の利益に関わる議会内委員会のメンバーになっている場合が多く、また、党の方針と地元の利益が異なる場合には、議会で投票する際に地元利益を優先した投票をしやすい、という結果も得られています。要するに、地元有権者がより多くの情報をメディアから得ていることを知っている政治家は、選挙区のためによりよく働く、ということになります。
 日本人は政治のことを知らないし興味がない、と断じる前に、メディアによる政治報道が有権者にとって身近なものになっているかどうかを検討する必要があるのかも。

(出典)Snyder Jr, James M., and David Strömberg (2010) “Press Coverage and Political Accountability,” Journal of Political Economy, 118-2: 355-408.