最近の日本の選挙は投票率が低くて「嘆かわしい」という声がいろんなことろで聞かれます。投票率低下は特に1990年頃から顕著になったようで、90年代後半からは、公職選挙法を改正しての不在者投票の簡便化や投票時間を午後8時まで延長するなどの対応がとられています。とはいえ、そもそもなぜ投票率が下がるようになったのでしょうか? その理由はもちろん一つではないのでしょうが、「えっ、そこ?」というような事実を暴いてくれているのが大阪大学の松林哲也さんの最近の研究です。
下の図は、衆議選挙における有権者一人あたりの投票所数と、投票時間の変更を行った投票所割合との推移を1960年代から最近までの期間について示しています。ここから、1960 年頃には 有権者1 万人につき8つ投票所が設けられていたものが、2010 年頃には 5つ程度に減っていること、また、規定の投票終了時間よりも前に投票を締め切っている投票所の割合が2000年頃を境に10%程度から35%程度に増加していることがわかります(2つめの図の縦軸ラベルは「投票時間の繰上げ・繰り下げをおこなった投票所」とありますが、実際には繰上げ(時間短縮)をした場合がほとんどのようです)。
松林さんの分析では、2005 年、2009 年、2012 年の衆院選での34 都府県 1152 市町村(全市町村の66%)を対象に回帰分析をおこなった結果、有権者 1 万人あたりの投票所数が1つ減るに従い投票率が 0.17%ポイント下落すること、また、投票時間の短縮では2時間だと 0.9%ポイント、3 時間だと 5.4%ポイント、4時間短縮の場合には16.5%ポイント投票率がそれぞれ下落する傾向にあることが報告されています。投票時間短縮に関しては、公職選挙法改正にともなって1998年選挙以降に投票締め切り時間がそれまでの午後6時から午後8時に延長されたのですが、実際には午後6時や7時で閉鎖している自治体が増加していることを反映しています。要するに、日本の選挙で投票率が低下し続けている背景には、投票所数自体の減少と、投票日当日における投票所閉鎖時間を法律上は延長したものの実際には繰上げて早く締め切っている自治体が増加していることが背景にあるようです。
投票所閉鎖時間の繰上げは地方自治体の独自判断でおこなわれているらしく[1]、また、投票所数自体の減少は(通常会場として使用されている)小学校数の減少によるものではないかという指摘がありますが[2]、実際のところなぜこうした変化がおこっているのかはよくわかっていません。とはいえ、投票率を向上させる施策を検討する際には、これらの点もふまえた投票コストを下げる方法が有効であることは間違いなさそうです。
[出典] 松林哲也 「投票環境と投票率」, ワーキングペーパー, 2015年.