選挙で選ばれた政治家が政策決定をするという意味での民主主義に対する失望や嫌悪は日本をはじめいろいろな国で聞かれます。しかし民主主義体制が世界の潮流となった現在、この政治のしくみをなんとかうまく使いこなすためのヒントを、「べき論」ではなく、比較政治学を中心とした社会科学における実証分析の蓄積から掘り出してきて一般の人に紹介しよう、というのがこのブログのねらいです。(1ヶ月に1回を目安に更新します)

2015年4月6日月曜日

競争相手のいない選挙で当選した議員は要注意?

   (写真の候補者個人と本ブログの内容は特に対応関係があるわけではありません) 


 2015412日・26日におこなわれる統一地方選挙では、対立候補がでない選挙区が続出しているために5人に1人は無投票で当選すると報道されています。対立候補なしというほど極端ではなくとも、当選確実の、いわゆる無風選挙区から当選した政治家と、接戦を制した政治家とは、何か違いがあるのでしょうか?
 ガラッソとナニチーニの研究は、イタリア議会選挙のデータを用いて、この問題を検討していま結論からいうと、接戦選挙でった議員は、無風選挙で当選し議員に比べると、政治家としての「質」がそもそも高く、また当選後もがんばって働く傾向があるようです。 
  イタリアの議会選挙は、1994年から2006年までの期間、日本の衆議院と同様の小選挙区比表並立制を採用していま在は比例代表制を採用)。彼ら研究はこのうちの小選挙区層での選挙結果を分析しています。ここでの政治家の「質」は、(1) 教育レベル(教育を受けた年数)、(2)政治家になる前に得ていた年収、(3)地方議会等での政治家経験の年数、の3つで測れていて、らが高いほどより質の高い候補者とみなされます。例えば、橋下徹大阪市長は政治家になる前テレビタレントとして莫大な収入を得ていたので、第2の政治家になる前の年収という基準からするとかなり「高品質」ということになりますね。一方、学歴が低く、民間企業等でもろくな収入が得られない新人候補は「低品質」という見立てです。統計分析の結果、参入時点で質の高い候補者のほうが、より競合的な(つまり、無風選挙区ではない)選挙区から出馬する傾向が各主要政党に共通して存在することが判明しています。このような傾向が生まれるロジックとして彼らが指摘するのは、政党リーダーは議席獲得最大化のために能力の高い候補者を接戦区に割り当てるから、というものです。
  彼らはまた、接戦区を制した政治家は(無風区で勝った政治家よりも)、当選後のパフォーマンスにおいても優れていると分析しています。具体的には、接戦区選出の政治家のほうが議会審議を欠席する割合が低くなる傾向があり、ここから、接戦区選出の政治家のほうがより議員としてのパフォーマンスがよいというふうに主張しています。
  彼らの分析結果から、今回の地方選挙において無投票で当選する議員のパフォーマンスには問題があるかもしれないと予測されます。こういった政治家に対しては、マスメディアや市民がより慎重に監視する必要があるといえます。また、この研究は選挙が競合的であることのベネフィットを確認しているわけですが、選挙を競合的にするにはそもそもどうしたらいいのか、という点が重要な検討課題であることを示唆しています(この点に関する研究がもっとでてきて欲しいものです)。

[出典] Galasso, Vincenzo, and Tommaso Nannicini (2011) “Competing on Good Politicians,” American Political Science Review, 105(1): 79-99.