選挙で選ばれた政治家が政策決定をするという意味での民主主義に対する失望や嫌悪は日本をはじめいろいろな国で聞かれます。しかし民主主義体制が世界の潮流となった現在、この政治のしくみをなんとかうまく使いこなすためのヒントを、「べき論」ではなく、比較政治学を中心とした社会科学における実証分析の蓄積から掘り出してきて一般の人に紹介しよう、というのがこのブログのねらいです。(1ヶ月に1回を目安に更新します)

2015年4月19日日曜日

報酬をゼロにしたら政治家の質は上がる?



 「号泣議員」LINE恫喝議員」「ナニワのエリカ様」など、政治家のレベルの低さを示すニュースが最近増えてます。こうした状況を反映してか、政治家の給料を下げたほうがよい人材が政治家になるのでは、という意見があちこちで聞かれます。20154月にYahoo!ニュース施した意識調査では、「地方員の報酬をゼロにしたら政治家質は上がるか」という質問に対し、49.2%の回答者が「質は上がる」と答え、25.2%が「下がる」としています (http://seiji.yahoo.co.jp/article/1681/(410点の14万票の内訳))。どうやら、「給減らせ」派のほうが優勢のようですね。同調査にれば、こうした立場をとる理由としては、金や名誉を目当てにした政治家が減って(報酬とは無関係に)誠実に政治や行政に取り組みたい政治家が増えるだろうから、というものが多いようです。当にそうなるのでしょうか。
 イタリアの市長選挙を分析したガグリアデューチとナニチーニの研究では、治家の報酬いほうがより有能な人材が参入し、政府(地方自治体)の運営も上手くいく、という結果がでいます。イタリアでの市長の報酬は、法律によって市の人口規模に比例する形で決められているのですが[1]、報酬が高くなるほど(ほかの要因は同じに調整したうえで)、より教育レベルが高く、また、弁護士、専門家、企業経営者といった、能力が高いことを示唆する職歴をもつ市長が増加する、という統計分析結果がでています。さらに、個人のレベルで能力が高い市長のもとでは、市民の支払う税金が低下する一方で、市役所の人件費や経常費が低く抑えられる傾向にあることが報告されています。このように報酬の高い市長のほうがよりよいパフォーマンスをする理由としては、再選したいというインセンティブが(報酬のせいで)より高まるからではなく、個人の能力がより高いから、ということも統計的に示されています[2]
 というわけで、実証分析の観点からいうと、報酬を下げたら政治家の質は上がるのかという問いへの答えは、少なくとも自治体首長職に関しては「NO」です(イタリアのほか、アメリカの州知事の分析でも同様の結果がでています)。全体の傾向としては、政治家の報酬は、民間部門で高いお給料を貰っている人材にとってある程度魅力的なレベルにしておいたほうが「号泣議員」は防げるようですね。

[出典] Gagliarducci, Stefano, and Tommaso Nannicini (2013) “Do better paid politicians perform better? Disentangling incentives from selection,” Journal of the European Economic Association 11-2: 369-398.


[1]この外生的なルールを利用し、不連続回帰分析(RD)を採用しています。
[2] この点に関しては、当選回数制限に該当する再出馬できない市長と、そうでない市長を比べた統計分析をしています。