選挙で選ばれた政治家が政策決定をするという意味での民主主義に対する失望や嫌悪は日本をはじめいろいろな国で聞かれます。しかし民主主義体制が世界の潮流となった現在、この政治のしくみをなんとかうまく使いこなすためのヒントを、「べき論」ではなく、比較政治学を中心とした社会科学における実証分析の蓄積から掘り出してきて一般の人に紹介しよう、というのがこのブログのねらいです。(1ヶ月に1回を目安に更新します)

2015年3月16日月曜日

投票の「やもめ効果」— やっぱり「つながって」いると投票率が上がるみたいですね





 ヘルス・リサーチの分野では、奥さんに先立たれた旦那さんは(奥さんとずっと一緒に暮らしている男性に比べると)早死にしやすいけど、旦那さんに先立たされた女性は(旦那さんとずっと一緒に暮らしている奥さんよりも)長生きする傾向があることが知られていますよね。投票行動研究の分野でも、配偶者がいるほうが(独身の人よりも)投票にいく傾向があることは1960年代から知られていました。しかし、それがどのようなメカニズムでおこるのか、という点については複数の説がありました。例えば、結婚することそのものが責任感をもつことにつながり投票行動に影響する(制度説)、夫婦で政治関連のニュースを話題にすることが政治的関心を育てるために投票にいく傾向が生まれる(対話説)、そして、結婚が「対人的つながり」をつくり、配偶者が投票にいくことで自分も一緒にいくようになる(動員説)、などです。

 このメカニズムの解明に切り込んでいるのがホッブス、クリスタキス、ファウラーの研究です。彼らは、2009年・2010年にあったカリフォルニア州でのいくつかの選挙データを利用し、選挙の前後1年間の間に配偶者をなくした6万人をピックアップして分析しました[1]。結論からいうと、配偶者がいることによる投票率上昇の背景にあるメカニズムは、「動員説」のようなのですが、いくつかの興味深い分析結果がでています。全体としては、配偶者を亡くした人のうち11%は、それまで投票にいっていたのにいかなくなってしまいます。また、より頻繁に投票にいっていたほうの配偶者がなくなると、残されたほうは(動員してくれる人がいなくなったため)以前よりも投票にいかなくなってしまいます。さらに、配偶者以外の家族と一緒に住んでいる場合のほうが、一人暮らしになってしまった人よりも早く元の投票レベルに戻ります。
 この研究は、直接的には、やもめになってしまうと対人的、社会的な「つながり」が失われ、それが投票にいくモチベーションを下げる「やもめ効果」を指摘しています。もうちょっと一般化すると、「やもめ」をはじめとした一人暮らしの人が増える昨今、投票率向上の鍵は、投票に一緒にいこうよと動員できるほどに強い社会的なつながりをどうつくっていくのかであるといえそうです。

[出典] Hobbs, William R., Nicholas A. Christakis, and James H. Fowler (2014) “Widowhood Effects in Voter Participation,” American Journal of Political Science, 58-1: 1-16.



[1] マッチング手法という擬似実験手法を利用しています。