選挙で選ばれた政治家が政策決定をするという意味での民主主義に対する失望や嫌悪は日本をはじめいろいろな国で聞かれます。しかし民主主義体制が世界の潮流となった現在、この政治のしくみをなんとかうまく使いこなすためのヒントを、「べき論」ではなく、比較政治学を中心とした社会科学における実証分析の蓄積から掘り出してきて一般の人に紹介しよう、というのがこのブログのねらいです。(1ヶ月に1回を目安に更新します)

2015年11月26日木曜日

女性政治家が党首になるとき


 先日、国連開発計画(UNDP)総裁のヘレン・クラークさんの講演会が慶応大学でありました。その際私が司会をした関係もあって彼女の経歴をいろいろと調べていたら、ニュージーランドの農家の出身で、議員として27年在職し、そのうち9年間を労働党の党首兼首相として過ごした後にUNDP総裁に就任された、とのこと。アジア諸国で女性がトップリーダーになる場合は有名政治家であった父親や兄弟の「世襲」という形いですが、彼女はそういうわでもなさそうだし[1]、すごなと思う反面なにか体系的な要因があるんだろうか?と思っていたところ、この疑問に答えてくれる研究がタイミングよく出版されていました。
 ダイアナ・オブライエンの研究は、女性が党首に選ばれやすい条件に、先進国10カ国の55の政党を対象とし1965年から2013年までのデータを用て明らかにしています。分析の結果、女性が党首として選出されやすいのは、小規模の野党の場合であること、そして、主要政党の場合ではその政党の議席数の減少が続いている場合であること、報告しています。ヘレン・クラークさんの場合では、所属政党である労働党がマイク・ムーア党首のもと2回連続選挙に勝てなかった(政権をとれなかった)際に党首に選ばれていますし、イギリスのサッチャー首相も同様に、エドワー・ヒース党首のもとで保守党2回連続して選挙に負けてしまった際に党首となっています。日本はオブライエンの研究での分析対象に含まれてはいませんが、社会党(現在の社会民主党)初の女性党首となった土井たか子さんの党首就任も、1986年の衆参同日選挙での大敗をうけてのことでした。
 オブライエンの研究では、党首を辞める状況が男女によって違うのかという点も分析していて、こちらのほうは、選挙での敗北をうけて党首が辞任する確率は、男性党首よりも女性党首のほうが高いという傾向がみられます。要するに、女性政治家は男性政治家の「尻拭い」として登用され、党の選挙パフォーマンスの責任は男性よりもシビアにとらされる、というなんとも割に合わない役どころ。とはいえ、リーダーとなるチャンスがきたらそれをがっちりつかんで、(クラークさんがUNDP総裁になったように)次のキャリアにつなげられたらよいですね。

[出典] O'Brien, Diana Z. (2015) “Rising to the Top: Gender, Political Performance, and Party Leadership in Parliamentary Democracies,” American Journal of Political Science, 59-4:1022-1039. 


[1] 例えば韓国のパク・クネ、フィリピンのコラソン・アキノとグロリア・マカパガル・アロヨ、タイのインラック・シナワトラなど。