公共セクターのリーダー(政治家やキャリア官僚)にしっかり働いてもらうには、市民やマスメディアによるモニタリング(監視)が重要だとよくいわれます。また、モニタリングにおおむねポジティブな効果があることは、多くの実証研究がすでに示しています[1]。とはいえ、モニタリングがどのようなメカニズムでリーダーのパフォーマンス向上、ひいては公共サービスのよりよい提供につながるのか、また、どのようなレベルやフォーム(形式)でのモニタリングが適切なのか、という点に関してはいまだに解っていないことが多いです。
グロスマンとハンロンの研究は、ウガンダの農民組合を対象に、リーダーに対するモニタリングの役割について分析しています。ウガンダでは、2000年代に全国で200程度形成の農民組合が形成され、各組合のリーダーはメンバーである農民の間から立候補・選挙を経て選ばれる、という「民主主義的な」構造をとっていました。彼らはこのうち50の組合においてサーベイ調査をおこない、リーダーの能力、モニタリングの程度、共同体全体へのサービスの提供[2]、などを測定しています。彼らの主な発見は、リーダーの能力が高いと、平均的には組合全体の運営がうまくいき良いサービスが提供される傾向があるものの、会計監査等のモニタリングの程度が高く設定されている場合には、有能な人材がそもそもリーダーに立候補しない傾向がある、という点です。これまでの研究では、モニタリングの役割としてリーダーの職権濫用を防ぐという点ばかりが注目されていたのですが、モニタリングの存在は有能な人材がリーダーに就任する前の参入の段階でも影響することをこの研究は示しています。あわせて、民間セクターにもっと魅力的な雇用機会(報酬)がある場合も、有能な人材が組合のリーダーに参入しない傾向があることも報告されています。
最近の日本では政治家やキャリア官僚によい人材が集まらない、という嘆き節がよく聞かれますが、その解決策としては、「ゆきすぎた」監視をしない、民間セクターに匹敵するレベルの報酬体系を提供する、といった点がこの研究の示唆するところといえるでしょう。特に、政治エリートに対するモニタリングを適切なレベルやフォームで設定するという問題は、今後もっと検討されるべき重要な研究課題だと思います。
[出典] Grossman,
Guy, and W. Walker Hanlon (2014) “Do better monitoring institutions increase
leadership quality in community organizations? Evidence from Uganda,” American
Journal of Political Science 58-3: 669-686.