アメリカでは、州政府の位置する州都が大都市ではなく全く辺鄙なところにあることは珍しくありません。ロサンゼルスやサンフランシスコのあるカリフォルニア州の州都はサクラメント、シカゴのあるイリノイ州の州都はスプリングフィールド、ボルチモアのあるメリーランド州の州都はアナポリスだったりしますが、これらの州都は日本ではほとんど知られていない小さな市です。州都の場所は歴史的な経緯から決められることが多いわけですが、州都が辺鄙なところに置かれているほど、汚職がひどくなり、また、教育や福祉への支出割合が低下するという傾向をカンパンテとドによる研究は指摘しています。
このような傾向が生まれる要因として、彼らは次の点を挙げ、それぞれ実証的に妥当であることを示しています。第1に、州都が辺鄙なところにあると、新聞などのマスメディアが州政治に関して報道する頻度が低下します。第2に、州都から離れた地域に住んでいる人々ほど州政治に対する興味を持たなくなり、同時に投票率も低下します。第3に、大都市から離れた州都の場合ほど、州都の近くに位置する企業や個人からの政治献金が多くなる傾向があります。これらの点を総合すると、州政府が辺鄙なところにあると、メディアや有権者による監視の眼が機能せず、州政府から特別に便宜を図ってもらおうとする企業などが付け入る隙を生み、結果として汚職の程度が高くなる、というメカニズムが生まれるようです。同様の傾向は、独裁政治のもとで辺鄙なところに首都を移転した場合(ミャンマー、タンザニア、カザフタンなど)においても報告されています[1]。
この研究はアメリカの州レベル政治の事例ではありますが、マスメディアや有権者による政治家に対するアカウンタビリティー(監視や制裁)の重要性、なかでも、アカウンタビリティー行使の際の情報伝達の重要性を示しているといえます。インターネットが普及した現在、物理的距離が情報伝達に与える影響は低下したといわれるようになりましたが、こと有権者やジャーナリストの政治に対する態度においては「ダイレクトに接触する」ことはまだまだ重要なのかもしれません。
[出典] Campante, Filipe
R., and Quoc-Anh Do, 2014, “Isolated Capital Cities, Accountability and Corruption:
Evidence from US States.” American Economic Review, 104(8): 2456-81.
[1] Campante, Filipe R., Quoc-Anh Do, and Bernardo V.
Guimaraes, 2013, "Isolated Capital Cities and Misgovernance: Theory and Evidence."
No. w19028. National Bureau of Economic Research.